ぼちぼち観察記録

見た舞台の感想やオススメや自分語り。関西小劇場と推しさんとミュージカル。

ミュージカル『HEADS UP!』感想「チケットを売ったってことは、約束したってこと」

togetter.com

 わたしがヘッズアップのことを知ったのは、このニュースを見たからだった。
昨年春の「てるみくらぶ」や記憶に新しすぎる「はれのひ」と同じパターンの倒産で、ひどい話だな…とは思っていたのだけど、「よりによってHEADS UP!の公演中止とは…!」というつぶやきが目についた。
どゆこと?へぇ、バックステージミュージカルなのか。っていうか再演か。うわっキャストみんな知ってる人ばっかりやん!気になる!と、興味を持つ。 

この件は主催が「被害者の方を東京公演に招待する」という形で決着が着いたようで、東京公演自体はまだなのだけど、今度はこういうつぶやきをたくさん見た。

 

「チケットを売ったってことは約束したってことですよ。良い芝居をしますって」

 

 まだ内容を知らないなりに、あぁいい台詞だなぁ…きっと良い作品なんだろうなと思って見に行ったら、その台詞から始まるM9『チケットは売れている』で、号泣することになる。

 

ミュージカル『HEADS UP!』

www.m-headsup.com

ミュージカルファンなら誰もが知る "あの名作" が1000回目の公演を迎え、華々しく終了したはず…だった。が、ベテラン主演俳優は某地方都市の古い劇場で1001回目を上演することを要求。誰も鶴の一声には逆らえず、上演することになったが、舞台美術は廃棄済み、キャストのスケジュールも押さえていない、スタッフも人手不足、演出家は理想のプランを頑として譲らず…。しかも、舞台監督はメインをはるのが初めての新人!

それでも、スタッフたちは、幕を開けようと必死に知恵を絞って奔走する。幸か不幸か、チケットは完売!観劇のために必死に都合を付けた観客たちが、期待に胸ふくらませて待っている!!

果たして幕は無事に開けられるのか…!?そして、主演俳優が「1001回目」にこだわった理由とは…?

 ミュージカル「HEADS UP!/ヘッズ・アップ!」公式ホームページ

 この日曜まで大阪公演があってそのあと名古屋・東京と続くので、演劇を愛する全ての人に見てほしい作品。ミュージカル俳優ばかりではなく、哀川翔さん・青木さやかさん・芋洗坂係長さん等普段はテレビで活躍されてる方もいるので、あまりミュージカル詳しくないし…って方にもオススメしやすい。

キャラクター名は設定されているけれど、作中ではあまり意味をなさない。「舞台監督」「制作」「演出部」「音響」「照明」「小道具」「衣装」等々それぞれのプロが真摯に仕事をこなす。ちょっとシンゴジラ思い出したのでシンゴジ好きな人は好きだと思うなー(マーケティングが雑)

 

あらすじにあるように舞台裏でドタバタするコメディミュージカルで、あーこういうの好きだわー三谷幸喜みあるなーと思ったりして(あとで調べたらミタニンもそういった作品やってたんですね、ショー・マスト・ゴー・オン。)、唯一演出家である海老沢にイラッとくることはあるけども基本的には楽しく見れる。演劇の裏方経験のある方が見たら、胃にクるようなシーンがいっぱいあるのかもしれない…。

女性関係だとかの揉め事も、ちょこちょこ挟まれるけどサラッと流される。小道具の桃子が「私の夢は、女『で』舞台監督!」と明るく宣言するのだけど、その一言だけで「あー、女性の舞監ってあまりいないんだな…大変そうだな…」ってわかる。この辺が絶妙で、これ以上舞台裏で起こっている人間関係や予算周りの実情をアリアリと見せつけられていたらわたしには辛かった。そういう「裏側」と、リノリウムを敷いてガムテで止めて、照明を設置してセットを組むという「裏側」のバランスがちょうどよかった。

そうやってのんびり見ていたのだけど、急遽セットを作り人を用意しなんとか公演を打てそうだ、というタイミングで口を出し公演中止を要請する演出家に、制作が声を荒げて抗議をする。

「公演は絶対やります、死んでもやる!」

「だって私たちはもうチケットを売ったんだもの」

「チケットを売ったってことは約束したってことなんですよ、良い芝居をしますって!」

この台詞を聞いた瞬間、冒頭の公演中止騒動を思い出し目が潤んだ。あぁなるほどそういうことだったのか。そりゃ初演を見ている人にとってはこの作品の公演中止の辛さも、その後の対応への賛辞も頷ける。被害者の方々、東京公演楽しんでほしいな…って、他人事に対しての涙であったのだけど。

そこから展開する歌に、心を打たれすぎた。

 

M9『チケットは売れている』

 

朝から晩までルーチンワーク みんな 暮らしに疲れてる

ランチの食費を切り詰めて チケットを買ってくれる人がいる(ありがとう)

カレンダーに印をつけて その日来るのを待ちわびて

朝から少しおめかしして みんな劇場に向かう

 

ミュージカル『HEADS UP!』パンフレット内歌詞より一部抜粋

私やん!!!!

公演が金曜日だったのでまさに仕事に疲れた週末、ランチ以外も色々と切り詰めてチケットを買って、職場のデスクのカレンダーには本当に印がしてあって…最近買った服を着て…そうなんですよ……

舞台上も明るくアップテンポなナンバー。そんな中で号泣(するわけにはいかないから声をこらえプルプル)していたので、多分周りのおばさま方に「泣くポイントどこ!?」って思われてたかもしれない。ごめんやで。

 

舞台って、なかなか博打な趣味じゃないですか。時折ネットで議論にもなるけどフライヤーだけじゃどんな作品かさっぱりとか、地方公演がなくて遠征するしかないけど自分の好みの作品かわからないとか。わたしの観劇歴はまだせいぜい5年ほどだけど、合わなかった作品だっていくつもある。半年先の予定は埋まるしチケット代は今飛んでいくから、友人との旅行は何年も先延ばし。そんなんでいいのかな、このまま観劇を趣味にしていいのかなと思う時もある。

でもヘッズアップを見て、あぁそうだわたしは舞台が好きなんだ、そうやって楽しみにして劇場へ行くのが好きなんだ。自分の席を探して座って、周りの雑談やオケピから聞こえてくる音出しでざわざわした開演前から全てが愛おしいんだ!ということを思い出せた。

順番が前後するけども、序盤でアッキーさん演じる熊川よっしーの言う「舞台上と客席は共犯関係」という言葉が好きだ。大掛かりなセットや映像技術がなくても、役者が言えばそこに海がある砦がある。寒いし暑い。舞台のそういうところが大好きだ。

浅学ながら裏方の仕事のこともそこそこ知ったつもりでいたが、作中には耳慣れない言葉もいっぱい出てきた。パンフの用語集や舞台ができるまでの工程が興味深い。まだまだ知らないことがたくさんあるということは、楽しい。

 

数少ない日本オリジナルミュージカルなので、パンフには全ての歌詞も載っている。(海外版権色々めんどくさいね!)日本語のために作られた歌で、日本人向けの話。神には祈らない。誰も銃を持ち出さない。セクシーなシーン…は少しあったけど(笑)現代ものだから前知識も特にいらない。本当に見やすい。こういう作品がもっとあればいいなぁって思った。

 

もっぺん言うけど、演劇を愛する全ての人に見てほしいです!!あとパンフレットの読み応えがすごいから買ってほしい。

 

 

ここから何人かキャラについての感想です。ネタバレあるよ!

 

 

最新の相葉裕樹がアンジョルラスだったので忘れかけていたんだけど、彼めちゃくちゃ可愛いんだった…可愛い…。レミゼは歌オンリーなのでしゃべるばっち久々に見ましたそういう声だったわ!かわいい!!顔がきれい!!新人の舞監・新藤の成長物語だと思って見始めたんですけどそんなこともなかったですね。作中でも言われていたけど、周りに助けられていた。彼はまだ、ここからだ。搬出が終わったあとに紙切れを拾い、一人深々と舞台に向かって礼をする姿、美しかったです。

いけじゅん!!ゴーカイの鎧以外で見るの実は初めてだったんですけど、役柄的にちょっと態度の悪い鎧で笑った。ヒーロー好きに悪いやつはいねぇ。回想シーン本当に子どもに見えた。ちょこちょこ動くしダンスの振りがでかい!色んなところで見たい役者ではあるんだけど出てる作品の傾向的に機会がなかったので、見れてよかった。ここ二人で戦隊ヒーローの話をするところ、さすがにテンション上がった特オタです。こういうヒーロー話、仮面ライダーっぽいものでやることが多いんだけど戦隊なの嬉しい。

桃子役のエツ子さん!こんなに出番のある役だと思って無くて、えっあれエツ子さんだよな…髪赤いもんな…って何度か目を疑った。新藤に対する扱いの慣れが微笑ましい。同期だったりするのかな作中でなんか言われてたっけ?普段挿入歌で聞くことの多いエツ子さんの生歌、いっぱい聞けて嬉しかったー!

陰山泰さん、いつも事前のキャストチェックでは何故か見逃してて出てきてから「あれっ!?」って気付く。安心感のある声。見るのは嵐が丘グランギニョルと来て三作目かな?いつもいいポジションの役で見守ってくださる。あのシーン、思わず敬礼したくなった笑

じゅんさんの声、なんか馴染みありすぎるんだけどそんな言うほど見てるっけ?って思ったら、風髑髏の贋鉄斎……ではなく、この印象は確実に蒼の乱の黒馬鬼。めっちゃしゃべるもんなあれ。終盤の「馬のシーンはどうする!?」って流れ、そこに馬いる馬!!って変な笑いが出てしまった。去年大河やってレミゼやって風髑髏やってからのヘッズアップですよね?まだあったのかな…お疲れ様です久さんかっこよかったよ…めっちゃ自然な職人だった…。

実は初アッキーさん。普段あまり東宝系行かないからタイミングなかったんだよ…歌はロックオペラの方のモーツァルトのCDでずっと聞いていたけど、やっと見れた。導入の、客席の心をつかむ台詞回しは見事。一気に掴まれたし「あっこの作品絶対楽しい」って確信した。
劇場の妖精さんだとふわっと聞いていて、新藤以外と会話してないのには気付いていたし自撮りするのがインスタントカメラ!最近また流行ってるとは聞くけどやっぱあのフィルム巻く音懐かしいな!あぁ現代の人ではないなというか人じゃないな、って思いながら見てたけどもその正体はだいぶ壮絶だったし、でも本人の雰囲気は柔らかい。劇場の気、わかる。二幕を最後まで見れてよかった、と涙ぐむ熊川さんにもらい泣き。
いっぱい歌う作品も見たいし、改めてアッキーさんの歌に酔いしれたい。

今さんの歌唱力圧倒的すぎて逆に笑った。今回の座組レミゼプリンシパル三人もいるんですね。うち二人は初演から再演の間に出た人だけど。アンサンブルも含めたらもっといるかな。
オーシャンズ11以来だった芋洗坂係長とか、パンフ見るまで気づかなかったけどホイッスル!出てた森内さんとか、隅から隅まで色んな気付きがあって楽しかった。アニキ25年ぶりのCDリリースおめでとうございます。

 

M9以外の曲の話全然してない!ということで追記。
みんな言ってるけどドルガンチェの馬の中毒性やばすぎるでしょ。馬でも靴でもいいけど、あのキレッキレの動きと一緒に脳内でリピートされてやばい。あまりに馴染み過ぎて、小さな頃に見たアニソンかの如く蘇ってくる。初めて聞いたのに。
何度もリプライズされるから耳に残る曲が多い。歌詞が全部パンフに載ってるので、一度しか見れてないけど稽古場映像やダイジェストで一フレーズでも聞けばだいたい思い出せる。

ただ新歌舞伎座二階、イマイチ音響がよくなかったのか時折まじで何言ってるのかわからなくて、パンフ見て「そうだっけ…?」って思うこともちょっとあった。新歌舞伎座初めて行って二階席の近さにびっくりしたりしてたんですが、仕様なのかな…。あの会場でフランス革命やるのめっちゃおもしろいですね1789行きたい。

 

余談だけど落ちてきた靴に対して「靴が主役みたいになっちゃった!」「キンキーブーツか!!」にめっちゃ笑ってしまった。キンキーもまた見たいなぁ。

 

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花の書き方に年代を感じる気がする。