ぼちぼち観察記録

見た舞台の感想やオススメや自分語り。関西小劇場と推しさんとミュージカル。

歪んだ家族の物語 ミュージカル『にんじん』

9/12追記:大楽後に追記するとか言ってもう一個別記事書きました。

yhforestmk.hateblo.jp

 

観劇遠征3つ目。地味に本命だった、ミュージカル『にんじん』。

ここ数年めちゃくちゃ応援している「劇団Patch」の劇団員で、個人的に推しメンである中山義紘さんが出演されています。

 

natalie.mu

38年ぶりの再演で、大竹しのぶさんが当時と同じように14歳の少年を演じると話題のこの作品。
キャストのクレジットがこんな感じ。

大竹しのぶ
中山優馬
秋元才加
中山義紘 ←ここ
真琴つばさ
今井清隆
宇梶剛士
キムラ緑子 (敬称略)

このそうそうたるメンバーのこの位置に推しの名前があるとか、見に行くしかないじゃないですか…せっかくの東京での舞台、東京で見たいじゃないですか…!新橋演舞場は行ってみたい劇場でもあったので、他の鳥髑髏とグランギニョルの時期を合わせて遠征しました。なので、推し舞台での遠征カウントです。

 

中山義紘さん、通称よしくん。折角なのでよしくんの話をちょっとします。
ここの下の方でも書いてるんだけど

yhforestmk.hateblo.jp

現メンバー最年長(27歳)で、高校大学とずっと演劇をやってきた演劇馬鹿。なんだけど、三作品も朝ドラに出たり(ごちそうさんの諸岡くんは覚えてる人も多いと思う)、その縁かBK制作のNHK番組にちょこちょこ呼ばれていたり(ヒストリアやバリバラ等)、あとはおは土でレポーターやってたり。関西人は一度テレビで顔見てると思う。

外部での舞台出演はあまりないし、Patchの中ではどちらかというと映像班っぽくて、それがずっともったいないなぁって思っていた。
本公演だと贔屓目なしにやっぱり飛び抜けていると感じるし(その分年長者だったり黒幕だったりする役が多いけど)、映像作品でもいいけどやっぱり舞台に立つよしくんをもっとみんなに見てもらいたい、色んな俳優さんの中にいるよしくんを見たい。そう願っていたので、にんじんへの出演はめちゃくちゃ嬉しかった。オファーらしいってのも嬉しい。

余談だけど、今年の春までPatchの総合演出家をやってらした末満健一さんが、このことをとても喜んでいたのが微笑ましい…本当にぱっちのお父さんだ末満さん…。

余談ついでに、中山優馬さんと秋元才加さんがそれぞれ耕史さんと共演経験のある弟分、妹分的存在であることから、発表を見て「これはもう推し推しとの間接共演では!?!?」とか騒いで友人を困惑させてた。すいません。推し推しの共演、夢だけどじわじわ近付いてる気がする。見たい。

 

インタビュー動画とかコメントとか、作品自体が色んなメディアに取り上げられるとうきうきしていたのだけど、そのコメントを見ているうちにふと気付く。

「これ、微笑ましくハッピーな子ども向けミュージカルではないな?」

今回は予習はいいやと思っていたのだけど、青空文庫で読めたので気になって数行読んでみて「えっなにこれこわい」とやめてしまった。ちょうど夜の話から始まるのだけど、底知れぬ闇が広がっていた。

 

そういうウキウキとそわそわを抱えて見に行きました。
このブログ、毎回前置きが長い。

 

ミュージカル『にんじん』8/4昼

 

-Story-

「まっ赤な髪で そばかすだらけ そうさぼくは みにくいにんじん!」

 ここは、フランスの片田舎の小さな村。まっ青な空、濃い緑の森、そして澄み切った小川の流れるこの村では、今日も村人たちが楽しそうに歌っています。でもその中にたった一人、仲間はずれの男の子がいました。それが、にんじん(大竹しのぶ)。
 にんじんのような真っ赤な髪、そばかすだらけの顔、だから父親のルピック氏(宇梶剛士)や母親のルピック夫人(キムラ緑子)までが、“にんじん”と呼ぶのです。にんじんだって、フランソワと言う名前があるのに…………。
 にんじんには、婚約者マルソー(中山義紘)との結婚式を控えて夢中の姉エルネスティーヌ(秋元才加)、甘やかされてわがままに育った兄フェリックス(中山優馬)がいますが、二人ともにんじんには無関心です。それぞれが勝手気ままの家庭に、新しくルピック家に女中としてやってきたアネット(真琴つばさ)もあきれる始末。
 誰にも愛してもらえないにんじん。みんなにどうでもいいと思われているにんじん。だから、どうしてもひねくれてしまうにんじん…………。そんなにんじんの数少ない友達の名づけ親(今井清隆)は、にんじんを優しくなぐさめます。
ある夜、ルピック夫人の銀貨が一枚なくなるという事件がおこります。夫人はにんじんを泥棒ときめつけ、はげしく責め立てるのですが―――。

 

公演情報 日程・上映時間:新橋演舞場-歌舞伎・演劇|松竹株式会社

 

 大竹しのぶさんの少年役、めっっっっっちゃ上手い。
キムラ緑子さんの意地悪な母親役、めっっっっちゃ上手い。
というかみなさん上手い。

総じてめっちゃしんどい!!!

 が、率直な感想です。

にんじんがいじめられてるのって、兄姉や同年代の子ども相手にだと思っていた。いじめられて泣きながら帰ってくるけど、両親は忙しくて味方になってくれないとかそういうの。「にんじん」というあだ名もそんなに重いものだと思ってなかった。率先してにんじんをいじめているのが、実の母親だなんて思ってなかった…つらい…。原作小説も、こどもがネグレクトを受ける様子があまりに淡々と書かれていて怖い。

女中のアネットが味方になってくれるわけではない(少し手助けをしてくれるけど)、名付け親のおじさんは優しいけども、にんじんを絶対に守ってくれる(そういうシーンもあるんだけど)わけではない…この作品には「聖人」がいない…そういうとこリアルでやるせない。

 このブログ、NHKラジオのミュージカル三昧を聞きながら書いてたんだけど、大竹しのぶさんのインタビューと「世界でいちばんさみしい子」が流れた。他の曲って少年声で投げやりな感じで歌うんですけど、この曲は大人っぽく切なく歌うので泣けるんだよな…。

「神様」に気付いてほしいと願う曲なんだけど、わたし最近まであまり海外作品に触れてこなかったので「神様」の立ち位置がよくわからないんですよ。クリスチャンではないし。
ちょっと話それるけど最近レミゼを全部読みまして、バリケードあたりでそうか海外作品ってどれだけ追い詰められても腹切ったりしないんだな、大将の首持って逃げたりしないんだな、自害はしないんだなと軽くカルチャーショックを受けたりして。メンフィスを見た時も、どれだけ人種差別がどうこういって揉めてもその町に教会はあって、みんな神に祈るんだなーそれはよくわからないなぁって思った。
にんじんの語りかける「神様」は本当に神なのか。両親のことかもしれない。

 

メインどころだけキャラごと感想。敬称略。

にんじん(フランソワ)◆大竹しのぶ

うっっまいのよ…舞台の、女性がやっても男役なら男になり、大人がやっても子どもになり、そこに翼がなくても見える、みたいなところが好きなんだけどまさにそれで、勿論近くで見たら60歳の女性だけども、舞台にいたのは14歳の少年だった。一切茶番っぽくならず、あるがままの少年。ちょっと落ち着きがなくて、気を引きたくて悪戯をする。無視されるよりは怒られる方がいいのかなって思っちゃう。

にんじんは母親のことを「ルピックの奥さん」と呼ぶし、父親のことを「ルピックさん」と呼ぶ。あまりに他人行儀で悲しい。アネットに自分のことを「にんじん」と呼ぶことを強要させるし、いじめられて泣いてる可哀想な子というよりは、捻くれて、諦めてる。周りから悪い子だ、って言われ続けて歪んでいる。それを本人も自覚しているところがしんどい…。

彼は「にんじん」という人格を別に作っているのか。あくまでいじめられているのは「フランソワ」ではなく「にんじん」で、いじめるのは「母さん」じゃなくて「ルピックの奥さん」、助けてくれないのは「父さん」じゃなくて「ルピックさん」だと言い聞かせているのかな。悲しい。

自殺を考える子どもなんてつらすぎるのだけど、「自分がいなければこの家は幸せかもしれない」というところから考え始めるのもほんっとつらい…。
結婚式場の大きな十字架にゾッとしたし、布に映る輪になった縄の影と、それに近づく子どもの影とかもうホラーでしかなかった。

ラストシーンは神々しかった。少しだけ成長したにんじん。兄は出ていき姉は嫁ぎ、家族の形も変わってしまったけど、今後どうなるんだろう。映画や他の戯曲では両親どちらかと和解するものもあるらしいけど、今回はどちらとも取れなかった。子どもの自立というには、まだ数年かかると思う。

次に学校の寄宿舎から帰ってきた時、彼は家族になんと呼ばれるのだろう。

 

フェリックス◆中山優馬

顔がとてもきれい。最近は舞台で活躍されているというのは聞いていたし、去年?だったかな、ドリアン・グレイの肖像を演るというので気になっていた。以前耕史さんも演った作品。雑誌のインタビューで優馬くんが耕史さんに相談したと聞いて、今でも連絡取るんだなーと微笑ましくなった。

フェリックス、性格悪いなーとは確かに思うんだけど、たった一言「あの人(母さん)はお前(にんじん)しか見てない」って言った時にイメージがひっくり返った。彼は、母親に叱られたかったんだな…。叱られたくて、気を引きたくて、悪いことをしても全部受容されてしまう。それどころか必要以上に愛されて持ち上げられて、それが面倒になっている。結局フェリックスも歪んでいる。この兄弟、足して割ればちょうどいいのに…。

そんな家に辟易して出て行きたいと願い、実際にそれが成功したのにちょっと笑ってしまった。家の金取るのはあかんけど。パリで生活できるのかな~甘やかされて育ってしまったことは事実だし、一人暮らしできなさそう。人のもの取るのが癖になってなきゃいいけども。ってなんでこんな心配してしまうんだろう…。

 

エルネスティーヌ◆秋元才加

名前覚えづらい!あと言いづらそうなのでマルソーが一回くらい噛まないか勝手にハラハラしてた。才加ちゃん、ロックオペラモーツァルトでのコンスタンツェ(見れてないのでCDで聞いただけですが)が良かったのでミュージカルで見たいなーと思ってたら、よしくんの相手役とかおいしすぎてその情報だけで数日間死んでた。

愛のない家に辟易して、外からの愛を求めた人。マルソーを尻に敷いてる感がとても良い。村で一番の金持ちだから彼と結婚するのと言っていたけど、どこまで本心なのかな。自分を一番に愛してくれる人だし、ドレスにうきうきしていたし、結婚式で盛大に喧嘩してたけど夫婦生活うまく行ってほしいな…作中でもそういう示唆があったけども、ここのカップルまで破局したらやるせなさ過ぎるわ。

エルネスティーヌのにんじんに対するスタンスがちょっと謎だった。単に出来の悪い弟、くらいだったのか。でも実際仲の良くない姉弟ってこんな感じかもなぁ。

 

マルソー◆中山義紘

思ったよりアホで可愛かった。あの地獄のような食卓に、(まだ結婚してないから)家族でもないのに平然と同席できるのすごいな…?空気が読めないのか、単にエルネスティーヌしか見えていないのか、我慢しているのかはわからないけど普通に尊敬してしまった。にんじんが実の家族からああいう扱いを受けているのを目の当たりにしているのに、普通ににんじん君と呼んで挨拶をする。話しかける。いい人なのか?偽善者なのか?にんじんと二人きりで話すシーンがあればもう少しわかったかもしれないけど。後に金持ちのボンボンだと明かされたので、ただのアホボンなだけかもな…。

毎回エルネスティーヌの椅子を引いてあげて、ニコニコしながらご飯食べて、エルネスティーヌに手をひかれて出ていく。これは結婚しても変わらないでほしい。ルピック家も元は名家だったっぽくて、お見合いだったのか恋愛結婚なのかはわからないけどもあの食卓に居られるなら相当エルネスティーヌのこと好きなんだなーと思っていたので、結婚式での暴言にめちゃくちゃびっくりした。案外器小さいな?

 

アネット◆真琴つばさ

寂しいにんじんの強い味方になっ…ってくれるわけではないんだな!女中だもんな!奥様に逆らっちゃダメだよな!フェリックスが夫人の部屋から出てきたことを証言してくれたのはありがたかった…。
ルピック家をおかしな家族だなとは思っていたけど、それを変えに来たわけではないから何もできない。傍観者ポジション。しょうがないけど、そのせいで若干印象が薄い…最終的にどうなったっけ?まだルピック家にいるのか?

ネズミの死体にも蛇にも動じないし、どうやら離婚を4回(だっけ?)しているらしいし、アネット本人も変わり者だということがよくわかる。ドレスを持って踊るところ可愛くもありかっこよくもあったんだけど、隣にいるエルネスティーヌもかっこいい系なので男役二人のようになっていた。

 

名付け親(アンリおじさん)◆今井清隆

なんかバルジャンみたいな見た目のおじいさん出てきたわ…孤児を育ててるわ…死ぬことは神のもとに召されることだとか言ってるわ…この時代(というには数十年ズレてるけど)のフランスのおじいさんってバルジャンみたいなのばっかなのか?って思いながらよく見たら今井清隆さんだった。バルジャンやないか。

という余談はさておき、聖人枠だと思ってたんですよ。にんじんの唯一の心の拠り所で、本当の名前を呼んでくれて、守ってくれる人。そうでもなかった…うっかりにんじんって呼んじゃうのダメだ…。
にんじんが辛い思いをしているのはわかっているけど、孤児じゃないから預かれないと言う。親がいるなら親元で育つべきだと。パンフにも少しあったけど、名付け親本人が孤児のパターンかも。

ダンディーで優しい歌声は安心したけど、やっぱり聖人じゃないし超人でもないんですよね。なんで結婚式ににんじん引き入れちゃったの!?あれでかなり自殺の引き金引いたよね!?酔っ払って気を良くしていたのかもしれないけど、あればっかりはちょっと!って思ってしまった。

アネットと同じで、あくまで傍観者。他人には、家族を変えられない。

 

ルピック氏◆宇梶剛士

稽古場にワンダーコア差し入れってズルすぎません?思い出すだけで笑ってしまう。

背も高いし貫禄のある見た目で、一幕はほとんど台詞がない。ただいるだけなのに怖い。奥さんと会話もしないし、何を考えているかが全くわからない。威厳のある父親…かと思ったら、二幕の狩猟の場面ではお茶目(犬に対して)だったりして、実はただ不器用な男だったとわかる。いや、頑張ってくれよお父さん!貴方の頑張りで家族が救われるよ!って思って心で応援してたけどそんな上手いこと話は進まなかった。

昔はそんな男じゃなかったのに、と言われてしまうのが切ない。ほとんどしゃべらないのは、自信がないから。仕事はした方がいいよな…自信がどんどこなくなっていくから…。その全ての原因は敗戦にあって、やっぱ戦争はダメだよねぇって思ったのだけどそういう話ではない?

にんじんが自殺を考えていたことを先に打ち明けられたのに、そのあと実際現場にかけつけて「ここまで思い詰めていたとは」って、いやいや言うてたやん!
自分のことしか考えてなかったと謝ってくれたのはよかったけども、遅いわ!ギリギリセーフだけど!

 

ルピック夫人◆キムラ緑子

ある程度予想はしてたけど、やっぱりめちゃくちゃ上手い。だからこそしんどい。ルピック夫人はただのヒステリー起こす意地悪なお母さんではない。にんじんが難産で、それと同時に敗戦のせいで家は傾き、身体も心も病んでしまった。家が傾いたのは…まぁルピック氏の不甲斐なさもあるとはいえ、難産も敗戦も自分たちのせいではないし、色々とタイミングが悪かった人なんだなぁ。ソロ曲で心情がバシバシ伝わってきて泣けた。

実の子どもにあの仕打ちは酷すぎるけど、あんなに歪む前に誰も止められなかったんだなぁと納得してしまう、周りの環境。時代。やるせねぇ…。

最後までにんじんとは向き合わず仕舞いだったし、フェリックスが出ていってしまったあとどうなったのだろう。持病が悪化しやしないかと心配してしまったけど、ルピックさんが終盤ちょっとしっかりしてたから側についていてくれるといいな。エルネスティーヌもしょっちゅう帰ってきて旦那の愚痴言ってそうな気がする。

桶に張った水に顔をつっこんで自殺をはかるにんじんを見つけ、飲み水に毒を入れようとしたと思い込んだルピック夫人が鬼の首をとったように怒り狂い、水をにんじんにぶちまけるところで一幕が終わる。
今思うとそういう発想に至ってしまうところでルピック夫人の病みっぷりがよくわかるのだけど、見た時はあまりの迫力と衝撃でしんどすぎて「えっ、このままの気分でご飯を食べろと?」と開演前に買った特別弁当を眺めながら呆然とした。

おいしかったです。

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ここまで感想をつらつら書いてみて、ほとんど音楽の話をしていないと気付く。ミュージカルというわりには曲数少ない?音楽劇って感じだった。結婚式の歌、後半の演出が怖すぎてちょっとトラウマになるわ…。
つらいシーンを見るたびに、あぁここが歌だったらよかったのに!と思ってしまった。歌だとちょっとつらさが緩和されません?人によるか。

親子ペアチケットが発売されているし、あちこちで「子どもに見てほしい」と歌われているけど子どもが見たらどういう感想を抱くのかとても気になる。色々あるとはいえ、親にいじめられている子どもの話であることは違いないんだし。
一幕終わりでぐずっているお子さんを見かけたのだけど、内容が怖かったからじゃないといいな…?

 

大阪公演も行くので、大幅な追記はしないかもしれないけどちょこちょこ訂正するかも。名付け親の名前とか。

推しの晴れ舞台、手放しで楽しかった!面白かった!というタイプではなかったけども、素晴らしい作品だったのでやっぱりみんなに見て欲しいなぁ。東京もあと半月あるし、大阪は来月でまだチケット買えるので是非!お安いA席もまだ買える日あるよ!

 

この座組で揉まれたよしくんの次の作品がとても楽しみ…なんですけど次なんなんだろう。個人的に直虎に出て欲しい。